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老後の年金額が気になる人も多いことでしょう。実は、年金額は毎年度見直しが行われているため、固定金額ではありません。そこで、この記事では年金額の決まり方や過去の推移、どのくらいもらえるのか、具体的に年金を増やす方法までを解説していきます。
<目次> 1.老後に受け取れる年金の種類日本の公的年金制度には国民年金と厚生年金があります。ただし、働き方によって加入する年金の種類は異なります。老後に受け取る老齢年金は自分の年金の加入履歴に応じて決まるため、まずはそれぞれの年金の基本を押さえておきましょう。 (1)国民年金 (老齢基礎年金)国民年金は、日本に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入する義務があります。納める年金保険料は一律で、物価の上昇などを反映して毎年見直しが行われます。2023年度は月額1万6,520円です。 保険料を納めていた(免除や猶予を含む)期間が10年以上あると、原則65歳以降に老齢基礎年金を受け取ることができます。ただし、受け取る年金額は納付期間に基づいて決まるため、納付が40年未満だと満額受け取ることはできません。 ①国民年金の受給金額の決まり方 79万5,000円(満額) × (保険料の納付月数 ÷ 480月) 68歳以上 79万2,600円(満額) × (保険料の納付月数 ÷ 480月) 保険料を40年間(480月)納めている場合は満額ですが、満額でない場合は納付月数に準じて算出します。 なお、受給額は賃金や物価の変動率を基準として毎年度見直しが行われることも押さえておきたいポイントです。 ②国民年金の受給金額の推移 2005年度 6万6,208円 2010年度 6万6,008円 2015年度 6万5,008円 2016年度 6万5,008円 2017年度 6万4,941円 2018年度 6万4,941円 2019年度 6万5,008円 2020年度 6万5,141円 2021年度 6万5,075円 2022年度 6万4,816円 2023年度 6万6,250円 (注)老齢基礎年金は、40年間保険料を納付した場合の額(満額) また、実際に受け取っている平均受給額は、以下の表の通りです。2021年度は5万6,479円ですから、年額にして67万7,748円と満額より10万円ほど少ない金額になります。 出典:令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況 令和4年12月|厚生労働省年金局(2)厚生年金 (老齢厚生年金) 厚生年金は、おもに会社員や公務員などが加入する年金です。国民年金に上乗せする形で厚生年金があり、厚生年金の保険料を納めることで国民年金保険料を含めて納付したこととなります。このような形から、日本の公的年金制度は2階建てといわれているのです。 なお、厚生年金の保険料は月給と賞与に対して一定率です。つまり、収入が高いほど保険料も高くなります(上限あり)。また、保険料の半分は勤務先が負担しており、給与天引きで勤務先を通じて納め、原則70歳になるまで加入できます。ここが国民年金と大きく異なるところです。 ①厚生年金の金額の決まり方 受給金額については以下の公式で計算を行います。「平均標準報酬額」とは、おおむね厚生年金に加入した全期間の年収を12で割った数字になります。 老齢厚生年金(年額)= 平均標準報酬額 × 5.481(※)/1,000 × 厚生年金加入月数 (※)5.481は2003年4月以降の給付乗率です。2003年3月までは7.125という数字を使っていましたが、その当時は老齢厚生年金の計算のもとに賞与が含まれていないため、ここでは割愛します。 なお、条件を満たすと65歳前に特別支給の老齢厚生年金を受け取れるケースがあります。対象者は1961年4月1日以前に生まれた男性、1966年4月1日以前に生まれた女性でいずれも厚生年金の加入歴が1年以上ある人です。 さらに、老齢厚生年金を受け取る人に一定の要件を満たした配偶者や子どもがいる場合、加給年金といわれる上乗せ部分があります。このように、老齢厚生年金の金額はそれぞれの状況によって大きく異なります。 ②厚生年金の受給金額の推移 表中の老齢厚生年金に記載されている金額は、夫が平均的な収入で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と夫の老齢基礎年金〈満額〉)の給付水準になります。 2005年度からの20年間の給付金額は、多少の増減はみられるものの減額傾向が続いています。 年度 老齢厚生年金(月額)2005年度 16万7,091円 2010年度 16万6,583円 2015年度 15万6,499円 2016年度 15万6,496円 2017年度 15万6,336円 2018年度 15万6,336円 2019年度 15万6,496円 2020年度 15万5,583円 2021年度 15万5,421円 2022年度 15万4,777円 2023年度 15万8,232円 年金額の推移、年金額改定について(2018~2023年度)をもとに筆者作成 また、実際に受け取っている平均受給額は以下の表の通りです。2021年度は14万5,665円ですから、前掲のモデル世帯より9,700円ほど少ない金額であることがわかります。 出典:令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況 令和4年12月|厚生労働省年金局2.【早見表】年金の平均金額とシミュレーション
ここでは、各年金の受給金額をみていきます。国民年金は加入期間に準じる一方、厚生年金は加入期間と給与額に応じて受給額がどのように増えるかみてみましょう。 (1)国民年金(老齢基礎年金)で受け取れる平均金額 加入期間 受給金額(年額、全額納付の場合)5年 0円 ※加入期間10年未満の場合は受給できません。 10年 19万8,750円 20年 39万7,500円 30年 59万6,250円 40年 79万5,000円 ※前述の老齢基礎年金の受給金額の計算式「79万5,000円(2023年度の満額)×(保険料の納付月数 ÷ 480月)」に準じて、加入期間に応じた受給金額を算出 また、免除や猶予がある場合、保険料の納付額と年金額への反映は次の表の通りです。 全額免除 4分の3免除 半額免除 4分の1免除 ・学生納付特例・納付猶予 全額納付の年金額に対する割合 2分の1 (3分の1) 8分の5 (2分の1) 8分の6 (3分の2) 8分の7 (6分の5) 0 ※カッコ内は2009年度3月までの割合 免除や猶予の場合、10年以内であれば納付(追納)により年金額を増やすことができます。また、追納の期限を過ぎた場合は、60歳以降65歳になるまでの5年間に任意加入制度を利用して保険料納付を行い、年金額を増やせます。 (2)厚生年金(老齢厚生年金)で受け取れる平均金額老齢厚生年金の受給金額の公式は、先述の通り以下になります。 老齢厚生年金(年額)= 平均標準報酬額 × 5.481(※)/1,000 × 厚生年金加入月数 平均給与=平均標準報酬額として算出すると、加入期間と給与額に応じて老齢厚生年金は以下の金額になります。年収が高く、加入期間が長くなるに従って老齢厚生年金の受給額が増えることがわかります。 加入期間 平均給与(月額)10万 20万 30万 40万 50万 5年 3万2,460円 6万4,920円 9万7,380円 12万9,840円 16万2,300円 10年 6万4,920円 12万9,840円 19万4,760円 25万9,680円 32万4,600円 20年 12万9,840円 25万9,680円 38万9,520円 51万9,360円 64万9,200円 30年 19万4,760円 38万9,520円 58万4,280円 77万9,040円 97万3,800円 40年 25万9,680円 51万9,360円 77万9,040円 103万8,720円 129万8400円 次に、働き方、収入による世帯別の受取額をみてみましょう。 ①夫婦共働きの場合 夫の平均年収 約689万円(生涯賃金額2億6,190万円 ÷ 38年) 6.3万円/月(老齢基礎年金)+ 11.8万円/月(老齢厚生年金)= 18.1万円/月 妻の平均年収 約559万円 (生涯賃金額2億1,240万円 ÷ 38年) 6.3万円/月(老齢基礎年金)+ 9.6万円/月(老齢厚生年金)= 15.9万円/月 合計 34万円/月 夫婦で老齢基礎年金と老齢厚生年金を受け取ります。老齢厚生年金の受給額の差は、年収によるものです。ひと月の年金受給額は世帯合計で34万円ほどになります。 ②夫会社員 妻専業主婦の場合 夫の平均年収 約689万円(生涯賃金額2億6,190万円 ÷ 38年) 6.3万円/月 (老齢基礎年金)+ 11.8万円/月 (老齢厚生年金)= 18.1万円/月 妻の年収 0円 6.6万円/月 (老齢基礎年金)+ 0円/月(老齢厚生年金)= 6.6万円/月 合計 24.7万円/月
妻の老齢基礎年金は満額受給となる一方、厚生年金は0円になり、ひと月の年金受給額は世帯合計で24.7万円ほどになります。 ③単身会社員の場合 平均年収 約689万円(生涯賃金額2億6,190万円 ÷ 38年) 6.3万円/月 (老齢基礎年金)+ 11.8万円/月 (老齢厚生年金)= 18.1万円/月 単身世帯ですから、夫婦の場合と比べてひと月の年金受給額は18.1万円です。 (3)公的年金の毎月の受給金額まとめ以下の表に、世帯の人数と働き方による年金受給額を一覧にしました。なお、厚生年金の金額については、夫の年収約689万円(単身会社員も同様)、妻の年収約559万円を想定しています。 年金の種類 年間の受給金額 毎月の受給金額夫婦ともに自営業の場合 (国民年金 + 国民年金) 159万円 約13万2,500円 夫婦ともに会社員の場合 (厚生年金 + 厚生年金) 約408万円 約34万円 夫会社員 妻専業主婦の場合 (厚生年金 + 国民年金) 約297万円 約24万7,500円 単身会社員の場合 (厚生年金) 約217万円 約18万1,000円 ※厚生年金は国民年金を含む 毎月の受給額で比べると、夫婦ともに自営業の世帯の金額が最も少ないことがわかります。会社員として厚生年金に加入している単身世帯と比べて、5万円ほども少ないほどです。 一方、夫婦が同じ共働き、かつ会社員の場合は自営業と比べて約2.6倍受取金額が大きいことがわかります。 3.年金の金額を増やす方法
受け取る年金と受給額について解説してきましたが、ここでは年金を増やす方法について解説していきます。年金は一生涯受け取ることができる大切な収入であり、自身での申請が必須です。しっかりと確認しておきましょう。 (1)夫婦二人暮らし 老後の生活費は月平均で約27万円正直なところ、年金だけで老後の生活を賄うのは厳しい可能性が高いでしょう。 平均データではありますが、総務省の「家計調査報告(家計収支編)2022年(令和4年)平均結果の概要 p.19」から65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)の家計収支をみてみると、毎月の消費支出が23万6,696円、税金などの非消費支出を合わせると26万8,508円となっています。 それに対して公的年金を含む社会保障給付が21万7,876円、つまり年金だけでは約5万円ほど不足していることがわかります。 年金額や毎月の支出は人それぞれ高低差があるものですが、日本全国の平均的な数字を見過ごすことはできません。一生涯受け取れる年金額を少しでも増やしておければ安心といえるのではないでしょうか。 以下は、具体的に年金額を増やすおもな方法になります。 (2)年金の繰り下げ受給をする年金の支給開始時期は原則65歳ですが、いつから受け取るかは自由に選択することができます。受取時期をうしろにずらすと、ひと月当たり0.7%の増額になります。66歳以降はひと月ごとに繰り下げ可能で、70歳では1.42倍、最長75歳までの繰り下げで1.84倍まで年金額を増やせます。 なお、前もって何歳から受け取るかを決めておく必要はありません。できる限り繰り下げて必要になったときに受け取れること、また、老齢基礎年金と老齢厚生年金のどちらか一方のみの繰り下げ可能など、柔軟性があります。夫婦の場合、要件を満たすともらえる加給年金がある場合は、繰り下げて受け取れなくなるケースもあるので注意が必要です。 例外的に遺族厚生年金を受け取っている場合など、繰り下げできないケースもありますが、多くの人が取り入れることができる年金額を増やす方法になります。 (3)国民年金の満額受給を目指す老齢基礎年金の満額受給額は、40年間保険料を納めて年額約78万円です。保険料を納めていない未納や猶予、免除などを受けていた期間があると、満額受け取ることができません。まずは、ねんきんネットで自身の年金を納めてきた記録を確認して、満額受給を目指しましょう。 免除や猶予などは、10年以内なら、後から保険料を納める追納制度を利用できます。未納や10年を超えた場合には、60歳以降に任意加入の手続きをすると、原則65歳まで納付できます。 なお、国民年金の加入期間(受給資格期間)が10年(120月)未満の場合、老齢基礎年金を一切受け取ることはできません。65歳時点で加入期間が10年未満の場合は、特例として70歳まで任意加入できることを付け加えておきます。 (4)付加年金へ加入する前述の任意加入の時に合わせて利用したいのが、付加年金です。自営業など国民年金第1号被保険者も利用できるので積極的に利用したいところです。なお、厚生年金加入者や扶養されている第3号被保険者は利用できません。 付加年金は、国民年金保険料にプラスして保険料を納める必要がありますが、2年間で納めたぶんの元は取れます。というのも、増やせる年金額は「付加保険料(月400円)を納めた月数 × 200円」、納めた月数が長いほど増えます。さかのぼっての納付はできませんから、速やかに年金事務所などで手続きをしましょう。 (5)厚生年金へ加入して働く厚生年金に加入できるのは、最長70歳までです。多くの会社は60歳の定年、65歳まで継続雇用制度を取り入れています。60歳以降もできるだけ長く厚生年金に加入して働き続けることで、老齢厚生年金を増やせる旨も知っておきましょう。 4.老後に向けてできること老後に受け取る公的年金(老齢年金)の受給額については、極めて個人差が大きいとおわかりのことでしょう。まずは、自分を含めた世帯の受給見込み額を把握することが重要ですが、年金だけで十分といえる世帯は少ないかもしれません。 公的年金以外に老後資金を作る方法はいくつかあります。特にiDeCoやNISAなど税制優遇制度をうまく利用して備えていくのも検討しましょう。 (ファイナンシャルプランナー 三原由紀、編集協力:スタジオユリグラフ 中村里歩)
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